『Over-nite Sensation』/Frank Zappa

1.Camarillo Brillo
2.I’m The Slime
3.Dirty Love
4.Fifty-Fifty
5.Zombie Woof
6.Dinah-Moe Humm
7.Montana
【概要】
1973年リリース。このアルバムよりアーティスト表記がフランク・ザッパ・アンド・マザーズよりフランク・ザッパに統一。また、フランク・ザッパ本人がボーカルもつとめる第一作となった。
画期的なレコーディングだけでなく、豪華な布陣でもあり、以降のポップ・ミュージック中心期への布石にもなった。
なお、当記事は2010年12月24日に書いたものを加筆・訂正した。

《アルバム紹介前に。》
えー、僕がフランク・ザッパを初めて聴いたのは中学の頃で、音楽好きの教師がレコード貸してくれました。『黙ってギターを弾いてくれ』の。
当たり前ですが、全編インストであるため、まだギターに触ったこともねー僕ぁ退屈極まりなかったことを覚えてます。
次に高校生の頃『フリーク・アウト!』を友達から借りましたが、これもイマイチでした。
結局、僕がフランク・ザッパに「うわぁ、もっと早く聴いとけばよかった!ごめんなさい!」と思ったのは五、六年前でして、今回紹介する『オーヴァーナイト・センセーション』をジャケ買いしてからです。
これね、画像だけ見るとよくわからんですが、CDでも手にとってまじまじと見つめるとおもれーです。アナログ盤も欲しいとこです。
ジャケットを手がけたデイヴ・マクマッケンによると、コンサート・ツアーにまつわる作品だそーで、全てフランク・ザッパが指定したオブジェを登場させて、タッチも指定どーりオランダの画家っぽく仕上げたそーです。
ともあれ、このジャケットはゲージツがわからん僕もピーンと来まして、買っちゃいました。
ほいだら、滅茶苦茶ポップで聴きやすいっつー。

《もしも最初に聴くのなら。》
フランク・ザッパに限ったことじゃねーですが、奇才呼ばわりされるしとのファンって狂信的です。まあ、僕もその一人なんですがね。
でもですね、「このアルバムの良さが理解できなかったら耳が腐ってる」みてーな独善的な考えのしとはどーかと。独善的なのは一貫した信念をもっとるアーティストの諸刃の剣で十分です。
よく、「はじめてのザッパ」として薦められるのがデビュー作『フリーク・アウト!』や、アルバム単位で一番売れたらしい『アポストロフィ』であることが多いです。
僕ならどっちも薦めません。
まず、前者は予算不足だったであろうことが否めず、ザッパを聴き込むと「ああ、やりたいことが思い通りにできなかったって感じだなぁ」と思います。
アレンジやオーケストレーションに比べて音質悪いですから。勿体ない作品です。
後者は、ピンク・フロイドで言えば『狂気』を薦められるよーなもんです。
聴きやすいんですが、最初の一枚にしては難解な曲が多いです。
売れたから傑作っつーわけもなく、歌詞がすんなり入ってくる英語圏かつ、ジョークや皮肉を理解できる文化があるから売れたんじゃねーかと。

firstzappa 僕が薦めるとしたら、『オーヴァーナイト・センセーション』の他に四枚のうちいずれかです。
左上がフランク・ザッパを毛嫌いしていたイギリス音楽誌も「唯一素晴らしい作品」と評価したっつー『ホット・ラッツ』です。ジャケのファンキな(ファンキーじゃなく、ファンキな。)男はザッパ家のベビー・シッターだったそーです。
こりはアヴァンギャルドさゼロです。一曲を除いてインスト作ですが、あらゆる音楽ファンが聴いても楽しめる傑作だと思います。
右上が、ポップな作品を発表するよーになってからの1970年代を総括する『シーク・ヤブーティ』です。
ファンを自称するしとで、初めて聴くのにこりを薦めるしとは信用できるしとです。
左下は『いたち野郎』で、キワモノなイメージがある初期において『ホット・ラッツ』と違う方向で呻らせてくれる秀作です。
「ギターでおふくろを殺してやりたい」やOh Noといった、題名や歌詞に反して聴きやすい曲が収録されとります。
右下が『ハヴ・アイ・オフェンド・サムワン』でして、ザッパの死後、発表されたベスト盤の一枚です。
単なるベスト盤じゃなくてですね、各方面で歌詞が顰蹙をかった問題曲ながら、名曲だけを集めた異色ベストでして、収録アルバムとは異なったリミックスが施されております。

《やっとアルバム紹介。》
お話を本題の『オーヴァーナイト・センセーション』に戻しまして、この作品が生まれるまでの過程は、「そのバイタリティはどこからくるのか?」と、存命ならガチで聞きてぇです。
1971年のフィルモア・イーストへの出演(ライブ盤にもなっており、未発表曲集に収録だがプラスティック・オノ・バンドとも共演した。)までは順調だったんですが、同年、イカれたファンにステージから突き落とされ、下肢骨折と、声帯が伸びるほどいけない方向に首が向く大怪我をします。
これを目の当たりにした当時のメンバーらは「ああ、死んだ」と思ったそーでして、なんとか一命を取り留めても「もうダメだろ、コイツ」と考え、バンドは離散しました。
ただでさえ、転落事故の前にモントルー・ジャズ・フェスティバルの火災で機材の殆どを焼失したっつーのに、人生落とし穴の次に落とし穴ですね。

入院中、フランク・ザッパが構想していたのは、ビッグ・バンドのジャズ作品なんですが、こりが凄い。単なるジャズやジャズ・ロック、フュージョンとかじゃ片付けられねぇ奥深さです。
が、当時のディストリビューターが「こんなんダメだよ。売れてなんぼなんだよこの世界は」とバックアップせず。
僕ぁスゲー作品だと思うんですが、確かにチャート向きじゃねーです。
再び窮地に立たされたザッパは考えました。

今世紀に入って廃れたサラウンド対応のオーディオDVDと似たもんだと思いますが、ディスクリート・レコードが、スピーカーを四つ利用して臨場感のあるサウンドを得られる手法を発明しました。

結局、この仕様はすぐ廃れたみてーですが、フランク・ザッパはここに目をつけ『オーヴァーナイト・センセーション』のアイディアを売り込みます。
結果、4チャンネルによる特殊仕様LP第一弾として契約に成功しました。
この点が僕が最初に聴く作品としてオススメしてー理由の一つです。
現在は通常のステレオ仕様ですが、4チャンネルを想定して製作したため、聴けば聴くほど「こんな音が鳴っとったか!?」と驚かされます。
40分にも満たない長さなんでサクっと聴けますしね。
あと、本作と『アポストロフィ』のマスター・テープを分析しつつ、各関係者のコメントを挿入したドキュメンタリーDVDもリリースされてます。

《豪華な面子》
ビッグ・バンド・プロジェクトから引き続いて、キーボードはジョージ・デュークが担当しとります。んで、『ワン・サイズ・フィッツ・オール』まで堅牢なリズム隊の肝になったルース・アンダーウッドの存在が見逃せません。
木管楽器を担当していたイアン・アンダーウッドのカミさんなんですが、このマリンバが凄まじい。
『ワン・サイズ・フィッツ・オール』収録のInca Roadsの生演奏見たときアンドロイドかと思いましたから。
上記DVDにて、フランク・ザッパが好んだ和音について説明したり、実演もしてます。
マレットを二本ずつ持ち、超高速で和音によるパッセージを叩くんですが「三ヶ所ミスったわ。三十年ぶりの曲だし、十年楽器を叩いてなかったから許してね」と語っておりましたが、どこをミスったか速すぎてわかりません。はい。

クレジットはされてねーですが、ティナ・ターナーと彼女のバック・コーラス兼ダンサー集団アイケッツが参加しとります。
一般的に1980年代に復活してからのが有名な気がしますが、当時の彼女は旦那とのユニット、アイク&ティナ・ターナーでソウル・ミュージックにて確固たる地位を築いていた大御所です。しかも、その大御所に卑猥な歌詞を歌わせとるっつー。
で、クレジットされなかった理由ですが、アイク・ターナーのティナに対する理不尽な嫌がらせのよーです。
彼女の自伝を原作にした映画『ティナ』で、アイク・ターナーの非道さが際だっていたり、実際、離婚する際の条件がアイク&ティナ・ターナー名義の曲の権利を放棄することで、実質ミュージシャン生命を絶たせるよーなもんです。
ただ、映画においてはあっこまで酷い旦那として描く方が作品としておもろいと思いますが、共依存が招いた悲しき夫婦だったんじゃねーかと。
アイクはプロデューサー、ミュージシャンとして才能豊かなしとで、一説にティナから彼にグループ加入のアプローチをし、熱意に負けたアイクは加入を認めたっつー。(一般的にはアイクがティナを発掘したと言われている。)
負の面ばかり注目されますが、ティナの個性を際だたせる演出やらで有名にしたこともまた事実です。
ドキュメンタリー製作時はまだアイクが存命中だったからか、ティナのコメントはねーですが。
フランク・ザッパは「お茶目で楽しい娘だった」みてーに語っていたのをどっかで読んだことがあります。

《単に豪華なだけじゃない》
強力な布陣で製作された曲の多くはR&B寄りの曲が多いです。
元々フランク・ザッパは少年時代にキャプテン・ビーフハートと、R&Bやドゥーワップのレコード聴き漁って研究してたそーなんで不思議なことじゃねーです。
なので、アレンジもこなれておりまして、ティナ&アイケッツの存在もあり完成度は高ぇです。実際、後々までライブの定番になる曲が殆どですし。
個人的に、ビッグ・バンド時代参加していたエインズレー・ダンバーに引き続き参加して欲しかったとこですが、ラルフ・ハンフリーのドラムもとんでもねーもんです。

当時のメンバーによると「フランクは本当にイカレた奴を連れてきて凄いことをさせる」ですが、実は「天然かと思ったらジャンキーかよ!オマエ、クビ!」だったらしいヴォーカルの故リッキー・ランスロッティもFifty-Fiftyでいい仕事してます。(このせいでザッパ本人がヴォーカルをとる一作目にもなった。内ジャケットのメンバー写真にもランスロッティの写真は無い。)
無意味にハイテンションな金切り声は「俺ぁフケもたかって臭くてたまんねえ野郎なのさ」っつー内容の歌詞にぴったりです。
んで、その後の各パートによるソロで畳みかけるのは圧巻です。

《トリックの数々》
マスター・テープをトラック毎に再生しねーとまず聞き取れねーと思うんですが、ドキュメンタリーにて、せがれのドゥイージル・ザッパがコンソール・ルームで解説を行ってます。
一応、ギタリストですが、このしと幼児期から親父の仕事を見つめ、少年時代はまっさきにPCのもつ可能性に夢中だったよーです。
このため、PCを使ったギタリスト向けソフトが出始めた頃、プロモーション用のビデオで見事に使いこなしてる姿を見たことがあります。
アナログ、デジタル、どちらの録音手法にも知識があるんで、わかりやすい解説が聞けます。
また、長女ムーン、俳優である次男アーメットはフランク・ザッパに対し父親という意識でコメントしているのに対し、長男ドゥイージルはまるで熱心なファンか共に仕事をしたエンジニアのような視点でコメントしてます。(実際、少年時代に共演した以外に、デビュー作はフランク・ザッパがプロデュースした記憶がある。)
関係ねーですが、彼がデビューした頃はチビTシャツ着た「そこらのチャラチャラしたガキ」っつーイメージでしたが、面構えに風格出てきましたね。

ドゥイージルによる解説をいくつか箇条書きにしてみてーと思います。
1.フランク・ザッパは曲のオマケ要素を「眉毛」と呼んでいたが、それは本作でも至る所に存在する。
2.さりげなく繰り返されるシンセサイザーのフレーズに他パートがレスポンスし、人力ループを形成している。
3.デジタル録音ではニュアンスを出すことが不可能に近い手法を用いている。
4.デジタル録音ではエフェクトは後から適用可能だが、アナログ録音は事前に録音しておかなければならなかった。

えー、まず「1」についてですが、ザッパ本人がどういった意図で「眉毛」と呼んでいたか不明ですが、僕ぁ「重要じゃないようで、あるとないとじゃ人相が全く異なるもの」っつー眉毛がもつ役割を意味してんじゃねーかと推測します。
「2」は圧巻ですね。全パートで聴いちゃうと気づかねぇんですが、確かに人力ループがあるんです。
で、意識して聴くとちゃんと聞こえるよーになり、「これ、DVD見ないで気づいてたファンは凄いぞ」と。
「3」はDirty Loveを例にとって解説しとりました。
この曲は所々で超バリトン・ヴォイスとユニゾンで歌ってる箇所があるんですが、このバリトン・ヴォイスは回転数を調整してピッチを下げてるそーです。
デジタルだと機械的にオクターブ下げたりしますが、アナログ故に自然なニュアンスを表現できているんだそーです。
「4」は、Dinah-Moe Hummの音量を上げて聴かねーとまず気づかねー箇所を例に解説しとりました。
確かにDTMでも「あ、ここはこういう音にしたいな」と思えば後からでもできますが、当時は録音トラック数も限られており、直感でエフェクトかけてたサイケなバンドじゃなく誰が聴いても楽しめる作品の場合、入念に構築した上でレコーディングに挑まなきゃならんかったそーです。

なお、このドキュメンタリーは、本編よりボーナス・マテリアルのがアルバムを分析してます。
本編は作品よりフランク・ザッパの仕事っぷりや考えについて、元メンバーやエンジニアらがコメントしとります。
ただ、アリス・クーパーのコメントが印象深ぇです。

「彼は体制側も対するヒッピー達も痛烈に皮肉っていた。光栄にも俺も笑い飛ばされたけど。でも、彼はどこにも属さなかった」
「俺も言われたんだが、(一見理解不能なことをしていても)アリス、わかる奴にはわかるんだってね」

《ところで俺にとってどんな作品なのか?》

ハイ、捨て曲無しです。しかも本作から音が格段に良くなってます。
てかね、ホントは『シーク・ヤブーティ』をチョイスしたかったんですが、紙ジャケ、通常盤ともに国内盤は廃盤(2013年注:ザッパ生誕70年もあり、すぐに再発された。)なんすよ。運良く店頭在庫か中古で手に入るくれーです。
別に輸入盤でもええんですが、一昨年紙ジャケで国内盤が再発された際、歌詞の対訳にご丁寧な解説も付けられていたことを知り、安価な輸入盤を集めてたことを後悔しました。
なので、まだ在庫があるとこにはある『オーヴァーナイト・センセーション』をチョイスしました。実際、僕がフランク・ザッパにハマるきっかけになったアルバムでもあり。
歌詞がぶっ飛んでますからね。zappatalk
ラストのMontanaなんて、海外版糸ようじ(リールのようなものを歯間に挟み掃除するもので、とても長い。)の木が育つ土地モンタナを目指すっつーシュールなもんです。
昔よくあった「○○全歌詞集」みてーに、ライナー・ノーツで対訳と注釈しとるしとがスタジオ版だけでも書籍にして出してくんねーですかね。


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