『マン・オン・ザ・ムーン』

【!ネタバレあり!なお、本記事は2011.2.7に執筆したものに加筆訂正いたしました。】

(2000年公開)
監督:ミロス・フォアマン
音楽:R.E.M.
出演:ジム・キャリー
ダニー・デヴィート
コートニー・ラヴ
ポール・ジアマッティ
ヴィンセント・スキャヴェリ
ピーター・ボナーズ
ジェリー・ベッカー
レスリー・ライルズ
マリル・ヘナー
レイコ・エイルスワース
マイケル・ケリー
リチャード・ベルザー

こんつは、ハンキー・ドリー・ハンクです。
あー、この作品、映画に疎い僕が観ても「完成度高いなぁ」と思いますが、万人受けするかっつーとビミョーだと思います。
まず、アンディ・カウフマンが日本じゃ無名に近い。
んで、その最たる理由が、笑いのセンスが日本人に向かない。
ただ、本人はコメディアンではなく「歌手兼踊り手」と自称していたよーで、通念的な「笑い」とは異なるベクトルを目指してたと思いますが。
ここらへんは本作の題名にもなったR.E.M.のMan On The Moonの歌詞からしても、コメディアンっつーより「常人が持つ感性の遙か彼方に向かっていた天才」と本国でも認識されとるのかな、と。
R.E.M.の『オートマティック・フォー・ザ・ピープル』が発表された頃、Man On The Moonの歌詞がよくわからんかったんですが、本作を観て「ああ、なるほど」と思いました。

結構端折ってますが、幼少期から人を驚かせたり笑わせたり、ペテンとも受け取れることを実践し、大学でTV学科を専攻したアンディ・カウフマンがスターダムにのし上がって35歳で亡くなるまでを描いた映画です。
で、久しぶりに観たら、ここ一年以上、色んな映画作品観たからか「ジム・キャリーすげぇな」と。
メイクや髪型で本人に似せた伝記物は多々あれど、あらゆる面で痛々しくなく本物に似てるっつー。
motm1新たな逸材を発掘すべく、TVプロデューサーのジョージ・シャピロは玉石混合なナイト・クラブに出入りします。
motm3

んで、ある晩、奇特なネタを披露しとるステージを目の当たりにします。
「奇特」なのは、挙動不審で妙なイントネーションで話すだけじゃなく、虚構と現実の狭間にあるよーな空気を漂わせとるからです。
このシュールな雰囲気に客は苦笑し、シャピロも苦笑するしかねーです。
motm2

物真似も全然似てねーですし、どー見ても精神を病んだしとです。
が、ラジカセの再生ボタンを押すとシュトラウスの『ツァラトストゥラかく語りき』が流れ着替えを始めます。
ジャケットを羽織り、髪型を整えたアブナイしとがギターを持って振り返ります。
どーでしょー、まるで別人。挙動不審な変な男がエルヴィス・プレスリーそっくり、しかも歌まで似てるっつー。(一説にプレスリー自身がアンディ・カウフマンの物真似を気に入っていたと言われているが、カウフマンがTVに出演したのが1975年であるから真偽不明。)
motm4この計算しつくされたステージにたまげたシャピロはTV出演を持ちかけ、結果サタデー・ナイト・ライブのゲスト・コメディアンとして出演することになりました。

冒頭にも書きましたが、ぶっちゃけ日本でアンディ・カウフマンの知名度が低いのは、笑わせることより、テメーが「面白いかつまらないか」と思うことを計算尽くでやったからだと思います。
時代云々じゃなく、シュールレアリズムに通じるもんだと思いますから、万人ウケしねーと。ただ、幸か不幸か当時のアメリカじゃウケたっつー。
が、ステップアップにコメディ・ドラマへの出演を持ちかけられます。(『TAXI』。)
これに対し、「あんなの最低だ」「被せられる笑い声は死人のものだ」「俺は俺の目指すもののためにやってるんだ」等々、純粋なとこを見せますが、地獄の門を開けた手前引き返せません。ショービズって怖いですね。
結果、出演する代わりにTVデビュー前から扮していたトニー・クリフトンのゲスト出演と、共にネタを考えてきたライターのボブ・ズムダのサポートっつー条件を呑ませます。

劇中じゃ触れられてませんが、トニー・クリフトンっつーのはアンディ・カウフマンが過去に見た「最低なラウンジ・シンガー」を真似たとのことで、下手くそな歌と客を罵倒するキャラです。
motm5
中身は同一人物なんですが、それを明かす前にジョージ・シャピロに「トニー・クリフトンだが、アンディを使うな!アイツはただのキチガイだ!」みてーに失敬な電話をしたり、マジで計算尽くです。
更に、アンディ・カウフマン=トニー・クリフトンっつー、まあ、プロレスで言うと武藤敬司とグレート・ムタみてーな認識がファンの間で確立した際、ボブ・ズムダがトニー・クリフトンに扮し、アンディ・カウフマンをステージから追い出すっつーこともやったっつー。
なんでも、衣装やらは二人が着ても見分けがつかねーよーに特注したもんだそーです。
すげえな、と。

コメディアンっつー括りで見られていた故、アンディ・カウフマンが思いつくアイディアは却下され、揉めることも度々ありました。
所謂、ディレクターや放送作家の分野のアイディアでも「これ面白くね?」と提案するんですが、「そんなの金にならない」と突っ返され「いや、面白いかどうかだって」と、ドル箱スターと業界の間に溝が深まってきます。

僕がこの映画を通してすげー感心した点が、ウーマン・リヴ絶頂期に、女性を痛めつける男女混合プロレスを行い、それに重点を置いとるとこです。
これまた劇中触れられてませんが、アンディ・カウフマンはフェミニストだったそーです。
つまり、フェミニストが「男には勝てないから、女となら戦ってやる!」とのたまい、ブーイングを浴びて「みんなまんまと騙された!」とほくそ笑んだと思うと、とんでもねーしとだったんだな、と。
なお、皮肉なことに、後々「まんまと騙されたわ」と評価される前に、どんどん馬鹿げていくTVのバラエティに嫌気がさし、生放送中にやらかします。
んで、業界から干されるかどーかっつー時期に肺癌と診断されるっつー。
弱り目に祟り目です。
<2013年加筆:劇中、アンディが非喫煙者であるのに肺癌はおかしいと家族が首をかしげるが、別に不思議なことではない。喫煙者はむしろ膀胱癌になりやすいそうだ。おそらく、煙草の毒素が膀胱に留まり排出されるからではないかと思う。>
が、TVでも私生活でも周囲を欺いてきた故、身内でさえ医師の診断が仕込みだと勘ぐっちゃうっつー。

久方ぶりに「ここだけリピート」です。
壮絶な闘病生活を割愛し、藁にもすがる想いでフィリピンの民間療法を受けに行くシーン。
そこで見せるアンディ・カウフマンに扮したジム・キャリーの笑顔が素晴らしいっつー。
当時、日本でも特番とかで採り上げられてましたが、呪術師みてーな医師が患部をさすると腫瘍が出てきて根治しちゃうっつー治療法です。
メディテーションを行ったりニューエイジ志向でもあった彼は、「フィリピンに行けば奇跡が起きる」と信じていましたが、自分の番が来て気づくっつー。
医師は予め動物の臓物の一部を隠し持っていたのです。
motm6motm7「こういうのは俺の十八番なのに、いや、まんまと騙されたよ。ハッ!ハハハッ!」と笑い、1984年に他界。享年35。

物語の最後は、生前、葬儀用に撮っていたVTRが流れ、エンディングにR.E.M.のMan On The Moonが流れます。
ここで、僕が高校生の頃、何度も聴いたこの曲の謎が解けます。
涙腺緩みますね。

アンディ、最近音沙汰が無いね。
人が月に行けるって信じてた?
俺には隠し事なんかないなんて、
そんなのクールじゃないよね?

-Man On The Moon/R.E.M.

真相は明らかじゃねーですが、個人的にアンディ・カウフマンの妻リン役にコートニー・ラヴをキャスティングしたことに、意図的なものを感じます。
ヘロインで酩酊し、ライフルで頭を撃ち抜いた夫・カート・コベインが自殺当日聴いていたアルバムがMan On The Moon収録の『オートマティック・フォー・ザ・ピープル』で、デビューから一貫して良作を発表してきたR.E.M.の才能にコンプレックスを抱いていたそーなんで。
とまれ、Man On The Moonを聴いてみましょーか。この曲からアルバム最後のFind A Riverまでは神懸かり的です。

<2013年追記:アンディ・カウフマンの日本における知名度から仕方ないことだが、本作公開に合わせて角川文庫から出版された『笑いの天才アンディ・カフマン』はおそらく再版されないだろう。しかし、古本が格安にて入手できるので、「笑い」にこだわりのある方は一読をお奨めしたい。>


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